STEM エキスパートコラム

建築・住宅に於ける特許

特許係争との出会い
 私事になりますが学生だった1963年頃、ある建築会社が学生重役と言う制度を作り募集をしているのを見付けて早速応募をしました。論文提出の試験も行われ日頃から関心の有った「建築の工業化」と言うテーマでこれからの建設業に於いてこれが如何に重要であるかを述べたのですが、残念ながら不採用だった事を思い出します。将来避けて通れない重要な課題であると考えていたのですが当時の建設業に於いては未だ関心が無く少し早かったのだと考えられます。
卒業後住宅会社に入る事になる訳ですが、幾つかの工業化住宅の開発に携わり1982年これも記憶に残る出来事で特許係争が持ち上がり当事者としてその対応に当たる事となったのです。初めての経験で事の重要さを思い知る事になり、当時住宅業界としては初めての特許係争と騒がれ大きく報道されたことを思い出します。それまで特許についての重要性にはあまり認識が無く問題が起こり始めて気が付く事になったわけですが、それまでの自社のシステムを用いた開発では特許の事を考える必要が無く全くうかつであった。

建設・住宅業界の特許権の状況
 建設・住宅業の特許の現在の置かれた状況を調べてみますと、2020度年度の特許出願件数は3,108件で全出願件数286,727件の1.10%です。そこで1990年から2020年までの30年間のデーターを見てみますと、その割合は最大で2.4%、最小が0.99%でここ20年間は約1%程度で推移しており極めて少ないと言えます。そこで他の産業がどの程度の割合かを見てみますと電機産業30~40%、自動車産業約15~20%、機械産業10~15%と圧倒的にこれらの業界が多い事が分かります。

図1_全特許出願件数と建築全体の出願件数

ここで建設・住宅業界の経済的規模がどの程度かを見てみますと2023年度の売り上げは約129兆円では全産業の売り上げ約1,930兆円の6.7%になります。経済的規模に比較して特許出願の規模が極めて少ない事が分かります。これはどの様なようなことが原因なのかを考えてみますと建築・住宅業の特殊性が有る事に気が付きます。その要因としては、まず①小ロットの請負型の生産であり一品生産が多い。②公共工事が多いのでどの施工会社でも出来る事が求められる。そして③建築物は長期の耐久性、信頼性が求められ安定し成熟した公知の技術が優先される。と言った事が考えられます。さらに④建設業界は大手企業だけでなく多くの中小の建設・住宅企業により形成されている事なども大きいと考えられます。しかしながら住宅産業の中でも工業化住宅は自動車・家電に比べるとはるかに量は少ないものの高度な構法システムや量産の考え方に基づき設計をするため、技術開発が重要となり特許の出願は比較的積極に行われています。参考に最近の建設会社、住宅会社の出願の状況を示します。(図2、3、4、5出願・登録実績)

図2_特許出願 ゼネコン
図3_特許出願 住宅会社
図4_特許登録 ゼネコン
図5_特許登録 住宅会社

建設・住宅業界にとって今後重要と思われる技術
 建設・住宅業界の技術の特性が他の産業と少し異なる性格である事が見えてきましたが、他産業の先進の技術を導入し労働集約的産業からの脱皮が必要だと考えられます。その為の求められる技術は何かと言う事ですが、ここにその一例を上げたいと思います。

① 建設DX、施工技術:
BIM及びBIMによる設計、施工、維持管理までの一貫した運用技術。

② 工業化、部品化技術:
より高度な工場生産化と現場施工の省力化技術の開発。

③ 環境対応技術:
省エネ、高耐久技術、リサイクル技術の開発。

④ ジェネレーティブデザイン(Generative Design):
多くの設計条件、制約条件などを入力すると膨大な量の設計案を短時間で生成し評価し最適解を出力するAIによる設計技術の開発。

⑤ BIMとAIによる自動化施工:
BIMデーターに基づき3Dプリンター、施工ロボット等による自律的施工により生産性の向上をはかる。


※図1~5は大和ハウス工業(株)集計

木村 宗光(きむら むねみつ)

元 大和ハウス工業(株) 取締役